広島からの帰り、僕は埼玉にいた。
数十年来の友達、Yクンと連絡が取れなくなった。
仙台のYくん(どちらもY君…)の件があったので、嫌な予感がしていた。
しばらくしてYクンからメッセージが来たのでホッとした。
しかしそれもつかの間、Yクンは昨年仕事場で急に倒れて要介護の認定を受け、現在は療養施設にいるらしい。
二、三ヶ月前までは意識朦朧、幻覚幻聴で、自分では何一つできなかったそうだ。
そろそろと施設の呼び出しボタンを押す。
Yクンは杖を持ちながら玄関で待っていた。
「大丈夫なの?」
「うん。今は歩けるしご飯も普通に食べられる」
どんな姿になっているのかドキドキしていたが、ちょっと安心した。
「ただ、いつまた倒れるか分からないから、今はまだ何をするにも立ち合い付きなんだ」
「仕事は?起業してたよね?」
「閉めたよ」
「マンションは?」
「兄弟や友達が処分してくれた」
生きていた証を残したいと言って買ったマンションだったっけ。
「車も売った。免許も切れた。ケータイ回線も解約した。もうみんななくなっちゃったよ」
淡々と語るYクンの声が流れた。
「・・命があるじゃん」
僕は仙台のYくんが脳裏に浮かんで口にしていた。
「このままいけばまた元気になって生活できるじゃん」
「・・そうだなぁ。確かに」
ただの相づちではなくて、本当にそう思っているように聞こえた。
「俺さ、ずっと仕事仕事してたじゃん。今になって思えば、何であんなにパタパタしてたんだろう、俺何してたんだろうって思ってる」
「あの時はあれが正解だったんだよ」
「今は一日三食、あとはテレビみたりボーッとしたり。決まった時間に規則正しく」
「で、それは幸せ?退屈?」
「…それがさぁ、人の捉え方によると思うんだけど、俺は幸せに感じるんだよ」
Yクンは付け加えた。
「こうしてボーッといろいろ考えるのも必要だなって。そしたらさ、退院したらあんなことしたい、これまだやってないからやろうとかいろいろ浮かんできて」
顔を上げなければ、目の前にいるのは昔のYクンだった。
「そろそろ帰るね」
「ああ、わざわざ訪ねて来てくれてありがとう」
施設の前には小川が流れていて桜が咲き出していた。
「上野の桜は結構咲いてたよ」
「そうなんだ。こっちももうすぐかな」
「これ、もうすぐ咲くけど、来年もまた咲くよ」
「そうだねー、来年は外で見たいな」
「次は快気祝いで」
「うん」
タイミングよく咲き出した桜を眺めながら空港に向かった。
自分もまた次もこの花を見に来なくては。
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