「最近投薬の量が増えたんだよね。別に悪くなったとか自覚ないんだけど」
6月、駅中のレストラン「HACHI」で僕らはハンバーグナポリタンを食べていた。
Y君とは古い付き合いだ。飛行機に乗るのが好きな彼は、年に数回、仙台から沖縄に遊びに来ていた。
そんなY君が突然脳腫瘍を患い、余命宣告を受けたと聞いたのが、僕が一昨年の秋に仙台に行った時だ。
その時も、「HACHI」のハンバーグナポリタンだった。
「これ、ナポリタン全国大会で日本一になったんだって」
「へぇ」
衝撃の告白だったはずなのに、その後はいつものたわいもない会話に戻っていった。
不思議とお互い冷静だった。想像もしなかった展開が他人事のように感じたのかもしれない。
それから僕は2~3か月に1度の割合で仙台に行った。
何もできなかったけど、三十年以上の友人の「終活」を見ていたかった。できるだけ長く。
正直、僕にとって、ナポリタンもハンバーグも自分から好き好んで注文するメニューではなかった。でも、仙台に行く度に注文していた。
今日、また僕は仙台で「HACHI」のハンバーグナポリタンを食べている。
独りで。
Y君は七週間前にこの世を去った。急に容体が悪化してからあっという間だった。
仙台には「青葉城恋唄」って曲があったな。
瀬音ゆかしき杜の都 あの人はもういない
背筋をピンと伸ばして、フォークにひと巻ずつ巻いてゆっくり味わう。
・・へぇ、ハンバーグもナポリタンも、こんなにウマいんだ。
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