「久しぶりだな」
運よく空いていたファーストフードのカウンター席に陣取っていると、Yがやってきた。
会うのは5年ぶりだろうか。
この間、フランスに住んでいる友達とも会ったし、北海道に住んでいる友達とも会った。
でも、歩いて5分のところに住んでいるYとは、何度も約束はしていたけど、結局会えずじまいだった。
そんなもんなのかな。
アクリル板で仕切られた空間で、スマホからネットオーダーする。
やがてトレイに運ばれてきたバリューセットのフライドポテトをつまみ出すと、空間はコロナ禍からトリップする。
「お前、仕事辞めてフランス語の先生やってるんだって?」
「フランス語じゃないよ、日本語の先生だよ。そっちは?あの事件でお騒がせした✕✕会社のまま?」
「同じだけど会社が分離した。今はこの名刺のとおり。聞いたことないだろ、ハハ」
「そういえば、あそこのT字路でさ、一時停止違反で捕まっちゃったよ。免許更新間近だったのに」
「マジか!実は俺も捕まった。あそこインチキだよな」
他愛のない話に顔がほころぶ。家族のことを聞いてみる。
「お母さん、元気?」
「ん~、今は車いすの生活だね。しかもコロナ禍に入ってから認知症になった」
「施設に入らないの?」
「そこだけは意識が働いていて、嫌がるんだよ。だから実質、在宅看護かな」
「いつまでもこの状況続いたら、お前の方が先に倒れるぞ。まずは自分の身体を心配しないと」
「そうだな。一応健康診断で大した異常はなかったけど、確かにこれ以上続くとしんどいな」
「この歳になると、会話の中心は、健康と介護と退職の話題ばかりだな」
確かにそうだ。でも、何だか不思議な感覚だ。現実話だけが他人事のように流れていく。
だって話している相手は学生時代のYのままだから。
「Yはさ、定年なったら何するの?」
「ん~、何しようかな、決めてない。でも再雇用はされたくないなぁ。お前見習って何か考えるよ」
「どっちにしても健康でいないとね」
1時間だけの約束だったが、結局お互い次の予定ギリギリまで話し込んで別れた。
やっぱり昔からの友達といると心が落ち着く。
たぶんこの先も時間に流されるだろう。だからこそ、会う機会は積極的に作って行きたい。
夜になってYからメールが届いた。
「たまには友達との談笑は必要だね・・・来年はチョコチョコ会う時間作りましょう。良いお年を!」
はい、良いお年を。
皆さまも健康で良いお年をお迎えください。
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